はじめに:変動する世界経済とセラミック産業
世界のセラミック産業は、近年、世界経済の変動、特にインフレ、高騰するエネルギーコスト、そして地政学的な不安定さといった多岐にわたる課題に直面してきました。2023年は多くの地域で厳しい市場環境が続き、生産量や売上高に顕著な調整が見られましたが、2024年以降、主要市場でようやく安定と回復の兆しが見え始めています。
世界のセラミックタイル消費量は2028年まで年間平均2.5%で増加すると予測されています。その背景には建設活動の再活性化と、住宅および商業セクターにおける需要増加があります。セラミックタイルは特に、その持続可能性、環境への配慮、そして高い機能性が評価され、建築・改修プロジェクトにおける重要な建材としての地位を世界的に確立しつつあります。
本コラムでは、セラミックタイル市場の経済動向、セラミックタイルの革新的な技術の進展、そして持続可能性への深い取り組みという3つの主要な側面を掘り下げ、セラミックタイル業界の現状と今後の展望をお伝えします。
1.市場概況と経済動向
2028年までの予測では、世界のセラミックタイル生産量は年間平均2.2%で増加すると見込まれており、これに呼応して消費量も年間平均2.5%で増加すると予測されています。この成長は、世界的な建設活動の再活性化と、特に住宅および商業セクターにおけるタイルの需要増加が背景にあります。この堅調な伸びは、セラミックタイルが現代の建築ニーズにいかに合致しているかを示しています。
■世界の主要市場動向まとめ(2023年報告データ)
イタリア: タイル総販売数は約3億7,600万平方メートル(+1.9%)に増加し、国内市場(+0.3%)と輸出(+2.4%)の両方で好調な結果となりました。特に、米国への主要輸出国6カ国の中で唯一、販売数を増加させています(+2.9%増の2,860万平方メートル) 。ただし、生産量は約3億6,600万平方メートル(-2%)に減少、総売上高は約5%減少し、最終集計は60億ユーロを下回ると推定されています 。イタリア製セラミックタイルは世界市場をターゲットとし安定した生産量をベースとした新技術/環境配慮への投資・価格優位性・デザイン・品質・ブランド力において世界的な地位を確立しています。
スペイン: 生産量は1.3%増の3億9,900万平方メートル、総売上高は48億1,900万ユーロ(-0.9%)とわずかに減少しました 。国内市場は好調(13億4,000万ユーロ、+3.1%)でしたが、輸出収入は引き続き減少しました(34億7,900万ユーロ、-2.4%) 。米国市場での回復はあったものの、フランス、英国、イタリア、ドイツでの減少を相殺するには至りませんでした 。
米国市場: 高金利、建設コスト、住宅価格が住宅市場の減速を招き、2024年には新規住宅建設が3年連続で縮小しました(-3.9%) 。タイル消費量も2億5,100万平方メートル(-5.1%)に減少しました 。ただし下半期には回復が見込まれており、1月にはタイル輸入が金額で18.5%、数量で17.5%急増しました 。イタリアは金額ベースで引き続き最大の輸出国であり(5,600万ドル)、スペインがそれに続きます(4,720万ドル) 。
世界のタイル生産と消費: 2028年までの予測では、生産量は年間平均+2.2%で増加し、消費量は年間平均+2.5%で増加すると見込まれています 。特にアフリカは年間+5.6%の生産量増加、+6%の消費量増加と最も高い成長が予測されています 。インドも生産量が年間平均5.9%増加し、世界のセラミックタイル生産においてシェアを拡大すると予測されています 。※中国・インドの統計データはレンガのような焼き物を含む可能性が高く純粋なセラミックタイルとしてのデータは不足しています。
■世界的建築ニーズにマッチするセラミックタイルのメリット
・持続可能性に貢献する天然原料と環境配慮型製造
セラミックタイルの主要な原料は、粘土、長石、珪砂といった地球上に豊富に存在する天然資源です。これらの持続可能性の高い天然原料を用いること、さらにそれらの原料をリサイクルすることで限りある資源への負荷を低減しています。近年では欧州を中心としたセラミックタイルメーカーが、製造工程におけるCO2排出量削減に積極的に取り組んでいます。太陽光等の自然エネルギーによる自社工場での発電、または再生可能エネルギーによって発電所でつくられた電気の買電、廃材を燃焼させエネルギーに変換するサーキュラーエコノミー、ろ過システムによる工場内の工業用水再利用の水循環システム、製造ラインの電化・効率化など、革新的な技術とプロセスを通じて、環境負荷の低減に尽力しています。これらの取り組みは、持続可能な社会の実現に貢献するとともに、環境意識の高い消費者や企業からの支持を集めています。
・優れたメンテナンス性と衛生面での利点
セラミックタイルは、その卓越した耐久性とメンテナンス性の高さも大きな魅力です。表面が硬く傷つきにくいため、長期間にわたって美観を保つことができます。また、吸水性が低く、汚れが染み込みにくいため、日常的な清掃が容易であり、衛生面でも優れています。これは、住宅はもちろんのこと、商業施設や医療施設など、高い清潔度が求められる空間において特に重視される点です。長期的な視点で見ると、頻繁な張替えや補修の必要性が少ないことから、ライフサイクルコストの削減にも貢献します。
・建物改修を加速させる薄型・軽量大判タイルの台頭
近年、建物改修において、薄く軽量な大判セラミックタイルの採用が急速に増加しています。これは、既存の下地をそのまま利用する「かぶせ工法」が可能であるという、軽量・薄型大判タイルが持つ独自の利点によるものです。かぶせ工法は、既存の下地を撤去する手間を省くことができるため、工期の短縮と人件費の削減に大きく貢献します。さらに、薄型・軽量であるため、既存躯体への改修による追加重量負担を大幅に軽減できる点も、特に大規模な建物改修プロジェクトにおいて高く評価されています。これにより、構造補強の必要性を低減し、改修コスト全体の抑制にも繋がります。
このように、セラミックタイルは、持続可能な天然原料の使用、環境負荷低減への取り組み、優れたメンテナンス性、そして建物改修におけるコストメリット提供により、今後も世界の建設市場においてその存在感を高めていくことが予想されます。環境と経済性の両面から、セラミックタイルが選ばれる理由がますます明確になっていくことでしょう。
■日本国内の全体的な建設需要の伸び
建設投資全体では、2025年度に75兆4,500億円(前年度比2.5%増)、2026年度には79兆2,100億円(前年度比5.0%増)と、堅調な増加が見込まれています。
■建物改修の需要の伸び
建築補修(改装・改修)投資は、2025年度が15兆4,400億円(前年度比1.3%減)と微減予測ですが、2026年度には15兆8,400億円(前年度比2.6%増)と再び増加に転じる見込みです。特に民間建築物補修は、住宅省エネキャンペーンや大型リフォームへのシフト、省力化・設備老朽化対応投資により、今後も堅調な需要が期待されています。
【ラミナム改修施工事例:京阪電車・淀屋橋駅】
既存床のタイル上に施工された6.1mm厚のラミナムは、工期を短縮し人件費・作業コストの削減に貢献しています。




2.セラミックタイルの技術革新
セラミックタイル産業では、生産プロセスの最適化と製品品質の向上を目指した様々な技術革新が進んでいます。市場競争は大量生産・低価格モデルからより高い独自技術が必要となる分野への投資に向かっています。平面から立体へ。自然であることを追求したリアルな立体表現やタイル内部の構造表現の分野で新しい製造技術が生まれています。またヨーロッパの温室効果ガス排出削減目標に適った、タイル焼成のガスから電気への移行、低温での焼成を可能にする原料研究や製造技術開発、タイルの薄型化による焼成時間の短縮(による温室効果ガス排出削減)への技術投資が進んでいます。
3D技術: グリット塗布のためのシステムや、反応性および増粘インクを用いるなど、3D技術を駆使したソリューションを提供しています 。これにより、セラミックタイルの構造、デザイン、および表面処理において、よりリアルで詳細な表現が可能になります 。
デジタル技術とサステナビリティ: デジタル技術は、セラミック製造プロセスにおいてサステナビリティを向上させる重要な要素となっています 。インクの無駄をなくし、印刷品質の持続期間を延ばすことで、より持続可能なソリューションを提供します 。揮発性の有害物質を排出しない水溶性インクを採用したプリント及び焼成技術の研究も進んでいます。
セラミック廃棄物の回収と再利用: 焼成済みセラミック廃棄物の回収と再利用を可能にする技術も向上しています。これは、天然原材料の需要を減らし、CO2排出量を削減することで、環境負荷を低減し、企業に競争上の優位性をもたらします 。
薄型化:最終生産コストに占めるエネルギー価格の割合が約20%)であるセラミックタイル産業は、環境に与える影響が大きくタイル焼成の約70%が天然ガスのにより行われています。セラミックタイルの製造段階のみを考慮したEUの2050年温室効果ガスGHG排出の目標は、
製品設計の変更(セラミック本体の厚さの減少)または再生可能エネルギー源による熱処理の50%の電化によって達成できるとされています。その意味でセラミックタイルの薄型化は今後も継続するトレンドであり、世界最薄2mm厚のタイルボディを実現したラミナムは、この技術の最先端の成果と言えます。
LAMINAM大判セラミックタイル:真正性を追求したリアルな天然石の表現は、「1つのタイルに2つの異なる質感」を与える技術にたどり着きました。(2025年4月イタリア・ミラノサローネで発表された新しいタイル表層:DNA仕上げ)
LAMINAM大判セラミックタイル:持続可能性に適う「薄さ」と立体表現の極限。ラミナムは独自の製造技術革新により世界最薄、本体厚2mmの大判セラミックタイルを製品化しました。(特許申請中)
2次元的制約を超える「曲面へのタイル施工」:世界最薄の大判タイルが可能にする新しいデザイン表現の可能性
3.持続可能性と環境への取り組み:未来への投資
セラミック産業は、環境課題と消費者・規制当局の高まる要求に応えるため、持続可能性を事業戦略の中心に据えています。
省エネルギーと資源効率: 最新の製造技術によりエネルギー消費を最小限に抑え、効率的な熱回収とエネルギー管理で燃料消費と排出ガスを削減しています。また、原材料の最適な利用を促進することで、資源の無駄を減らし生産効率を向上させ、環境への影響を低減しています。
廃棄物管理とリサイクル: セラミック廃棄物の回収と再利用は、持続可能性の重要な柱です。焼成済み廃棄物や生産副産物を新たな原材料として再投入することで、廃棄物埋立地の負担を軽減し、天然資源への依存度を減らし、循環経済モデルへの移行を加速させています。
CO2排出量削減: CO2排出量削減は業界全体の喫緊の課題です。CO2除去技術の導入や、生産プロセスの最適化、再生可能エネルギー源の活用、輸送効率の改善などを通じ、サプライチェーン全体の排出量を削減し、産業の脱炭素化とよりクリーンな生産モデルへの転換を推進しています。
LAMINAMの考える「責任ある美の追求」
参照:CERAMIC WORLD Review 2025年2月/3月号詳細レポート:世界のセラミック産業の動向と展望
参照:『建築経済モデルによる建築投資の見通し(2025年7月)』一般財団法人建築経済研究所/一般財団法人経済調査会経済調査研究所